冠をなくした高齢者
- 2016.10.31 Monday
- 14:51
JUGEMテーマ:ニュース
20世紀に女性芸術家として活躍したマリー・ローランサンは、生前、このような言葉を遺してた。
死んだ女よりもっとかわいそうなのは、忘れられた女です。
どうにでも解釈ができるし、どう料理したところで、あらゆる立場の人間から攻撃されてしまう、毒を含んだ食材のような名言であるが、我輩として、これに現代風のアレンジで手を加えると、文字通り”後味の悪い”ものにしてしまい、何とも嫌な気持ちになってしまう。
いやね、こないだ近くのスーパーで、パトカーが停まってて、ああ万引きとかかなー…と思ったら、なんか80歳過ぎた老人が大声でスーパーや警察官に呪詛を吐きながら引きずり出されてたのを見てしまったな。
窃盗、暴力、性…まるで“老成”していない高齢者たちの「裏社会」(上)
この記事では、いわゆる”老成”できない理由について、貧困や孤独だけでなく、ストーカーに至るまでの心の闇について書かれていて、どうにも理由が導き出せないという記者の様子が見受けられる(まあ、次の話でたぶん何かが判るとは思うが)。
我輩の住んでる場所といい、今、働いてるオフィスのある場所といい、とにかくこの種の高齢者が多い。
子供の遊ぶ声やらヘルパーの態度が気に食わないとかで、市役所に何時間も窓口で喚き続ける老人。
道の真ん中に座り込み、袋いっぱいに詰め込んだカップ酒を次から次へと流し込んで、あたりかまわず吐く老人。
いきなり道行く人に殴りかかってくる老人。
場所が場所だけに、貧困や孤独によってアル中になり、脳みそが破壊されてしまってると結論づけることは可能だが、前述のスーパーで引っ立てられた老人は、それのどれにも類するような人物には見えなかった。尤も、それよりも以前に、同じ老人がレジ係に何十分と怒鳴り続けてたのを目撃したわけだが、貧困や孤独とか、あるいは病気というものを見出すことはなかった。
「どっかの大手商社の部長だったんだけど、定年後、奥さんに逃げられたんですって」
最近、我輩は近所の高齢者とかと話す機会が増えた。話をしやすいオーラーがあるのかもしれないが、そんな中でこのことを話したら、一人が我輩にその内情を教えてくれた。
道行く人をつかまえて、その社名を言えば99%は知ってるであろうその大手商社で長らく働き、華やかなキャリアを積んでたそうだが、人間的におかしなところがあったために役員になれず、定年を迎えたとのこと。普通であれば、関連会社の社長とかのポストとかに落ち着くはずが、断ったのか断られたのか知らぬが、そのまま隠居となったそうだが、前後に奥さんが家を飛び出して、離婚となったそうな。
原因はDV。
あくまでも噂レベルだから、嘘かどうかは判らない。が、大商社の部長の奥さんである間は、あらゆる暴言に耐えられたのであろう、子供もいたから我慢しなければならなかったのであろう。だが、奥さんで”あった”となった瞬間、死ぬまで奴隷であることに耐えられなかったことであろう。十分に理解できるし、本当であればその元部長の自業自得だと言うことだ。
こういうゴシップになると、我輩に話をする人の舌は止まらない。
俺様は○○の部長だったから、直ぐに後妻ができる!…あんな性格だから、誰からも相手にされない。
俺様は○○の部長だったから、直ぐに新しい仕事が来る!…定年後、その商社からは一切没交渉になったとのこと。
俺様は○○の部長だったから、誰からも好かれてる!…そんな感じだから、近所からも鼻つまみもの。
結果、孤独になったのだが、孤独であることを認めようとせず、自分は正しい、周りが俺様のことを認めてないのが悪い!…てなことになり、注目を集めるためにあらゆる不可解な言動を起こすようになった。
近所のポストがからはみ出た郵便物を引きずり出して、敷地内に投げ込む。
洗濯ものが干されているのは景観を悪くすると、その家の前で何時間も怒鳴りまくる。
道路のあちこちの地面に、ポイ捨て禁止のステッカーを張りまくり、アルファルトの半分が黄色くなる。
なんか、それは病院に行かせたほうがいいのでは?
我輩がそう言うと、
「でも、誰が(病院に入れられる)?」
と返ってきた。
何よりも痴呆ではないそうだ。
ただ、自分は凄い人間なのだ!!おまえらとは格式(?)が違う!!ってな感じで喚き散らかし、それを強調するために、あらゆるところのあらゆる人に対して、とにかく軽犯罪とかを犯しているとのこと。
”老成”というものではない。
貧困や孤独ではなく、我輩が思うに、この種のいわゆる”暴走老人”は、かつて何かにおいて地位ある人間だったりした。が、それは同時に、その地位以外に何も持っていない人間でもあったわけだ。
ある会社に勤めていた…その会社の名刺を持ち、会社バッジを付けてるだけで、その業界の人たちから花よ蝶よと持て囃されてた。どんな理不尽な要求も、受け入れてくれた。だが周囲が平伏してたのは、その人間に対してではなく、その名刺、そのバッジに対してのみであった。それに気づかず、全てをむしり取られたものの、その力が自分にはまだあると思える老人が、暴力をもって自分の存在していない力を誇示しているというわけだ。
もしかしたら、ブラック社員は軒並み、こういう馬鹿老人になるのかもしれない。
ブラック社員は要するに、その会社の存在が(その会社の価値がどうであれ)ある限り、自分は特別な存在だと勘違いし、周囲に対して自分を平伏せというハラスメントを巻き散らかす。が、それが奪われたら、何が残るというのだろうか。
会社に自分の人生の価値を見出すのは、まあこれは他人の人生だ、とやかく言う必要はない。
だが、その会社は、定年後に自分の冠であり続けるのかどうか、考えるべきだ。正直な話、役員になったとしても、”元”でしかない。また、その冠に自分の存在がふさわしいかどうかも疑う必要がある。100%、相応しいものではない。そう自覚すれば、周囲に対して少し人間らしく接することができる。
「で、あんた、いつ結婚するんだい?なんなら紹介してやろうか?」
いや、おばあさん、けっこうですって…。