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大阪都構想 反対多数が確実に 橋下氏、政界引退も…「維新」に大打撃
そもそも大阪市市民ではないことから、天井桟敷から覗き込むだけではあったが、関心がなかったわけではない。
住民投票によって、境界線が大きく変更されたという事例が日本でもできるのかということに、興味を抱いていた。
つい最近では頓挫したスコットランド独立投票というのがあった。
1993年には、住民投票ではないが、議会での勢力図が変わったことで、長らく一つの国だったチェコスロバキアが二つに平和裏に分裂独立した(”ビロード離婚”と呼ばれている)。
住民の意志によって、行政区分が改定されるというのは大きな事例になると思っていたが、蓋を開ければ現状維持ということになった。
ツィッターでもブログでも、様々な意見が出ていた。
ただ、それらを全部見直してみても、都構想の是非について、賛成反対両派において、明確な白と黒の境界がないという奇妙な光景が見られた。
都構想は日本国民の権利を外国に譲渡するための売国行為だ。
いや、都構想は二重となっている行政組織を一本化することで、財政がまっかっかな大阪を救うための一里塚だ。
何を言う、一本化したところで、年間一億円程度の抑制しかできないんだぞ、むしろ一本化のために莫大な費用がかかる。
それでも大量出血状態を少しでも抑えるには、必要なことだ。
いやあ…どれもごもっとも。
だがどちら側についても、単純に我輩は首を縦に振りたくないし、横に振るというほど我輩の脳みそは停止してはいない。
ただ一連のゴタゴタについて、他国で同じようなことがあったことを思い出して、ああ…人間はつくづく業が深いなあ…と思ったりしたわけさ。
マレーシアは世界史から見ると、実はかなり若い国だ。
武力によってではなく、宗主国の英国と協議を重ね、1957年、平和裏に独立した世界史においても稀有な存在だ。
無論その後、シンガポールの問題等が発生し、流血の事態があったが、ある時期から急速にASEANにおいて存在感を増した…それがマハティール政権であった。
多くの経済政策を実施し、2020年に先進国入りするビジョンを示し、国内工業の発展(この時、マレーシアの国民車であるプロトン社が設立された)、教育制度の改革、徹底したインフラ整備等を行いつつ、同時に各州のスルタンから政治特権を剥奪し、アジア通貨危機もいち早く脱出することに成功した(もっとも末期は、基盤政党内での政争はシャレにならないものがあったが)。
成功した開発独裁の姿がマレーシアにある。
さて、同じASEANの中で、タイ王国となると、やや毛並が違ってくる。
ビジネスマンであるタクシンが首相となると、似たような経済政策を推し進めた…公共事業、とりわけインフラ整備への多額の資金投入を軸とした”タクシノミックス”がそれだ。
内需拡大を第一としたこのビジョンは、初期段階で効果を上げていたのは確かであった。
しかし、タクシンは政治におけるビジョンを持たない、ポピュリストでしかなかった。やや乱暴な表現ではあるが、タイ版小泉純一郎のような存在であった。
地盤である北部、そして華僑に偏った政策であったため、内需拡大どころか貧富格差が悪化したと言われている。
また自ら報道への強権的な規制を始めたこと、警察上層を親族で固めたこと、南部への締め付け等によって国民の不満が爆発し、クーデタによって亡命するに至った。
ただ見方を変えると、タクシンを完全な悪とするのは、あまりにも幼稚すぎるに気付く。
たとえば麻薬の取り締まりを徹底させたこと。売春を徹底的に締め付けたこと。医療制度を改革したこと。
昔の西原理恵子女史の漫画を読むと、生前の鴨志田氏が簡単にバンコク市内で麻薬を買うシーン、日本人駐在員が公園で大麻を吸うシーンなどが頻繁に出てくる。
エイズ禍も酷く、売春婦の半数以上が感染者だったという話を聞いたことがある。
貧しさ故に病院へ行けないということが当たり前で、意味をなさない呪いや”ピー”への祈りが繰り返されてたと言う。
教育施設も完備されておらず、都市部以外は貧困の極みにあった。
それらを改善するために採られた政策は、なるほど、一定の成果をあげたのは間違いない。
ただね…タクシンは敵をたくさん作り過ぎた。
タイは東南アジア諸国の中で長らく独立を保った王国であった。
国内の諸勢力によって国が成り立ち、運営されていくわけであるが、その独立の歴史が長ければ長いほど、存在として出てくるのが”既得利権”である。
”既得利権”を悪だと両断するのは、知能に障害がある人間だ。
社会が正常に運営されていくために、確固とした制度が存在する…”既得利権”というのは状況によって必要は機能であり、報酬制度である。その利権が与えられている間、よほどの有事がない限り、そこには生活を保障する制度が存在することを意味する。
タイではそれは、王族を頂点とした産業界であり、仏教であり、軍事力警察力である。
たとえば教育。
地方を覗いてみると、教育施設は整備されていないが、代わりに寺院が寺子屋としての機能を果たしている。
無論、高度にして、国民を育てるための教育課程からは程遠いが、それは”既得利権”として、国民である以前に仏教徒であることが重要とする制度が存在している。
ただ、タイの南部には多くのイスラーム教徒が住んでいることを軽くみた。
産業では、華僑に偏重した政策は、国内における産業を支えた”既得利権”としての民族資本を大きく損ねたところがある。
軍事にしても、警察にしても、タイにおけるエリートである”既得利権”の最大グループに喧嘩を売った。
シンガポール型の開発独裁を目指したとする考えもあるようだが、シンガポールやマレーシアと違う、歴史があり、その年輪と共に地中深く根付いた”既得利権”の存在を軽く観たところに、タクシンの限界があった。
橋下市長は、タクシンと重なるところが多い。彼は喧嘩をしすぎた。
味方にすべきグループに対してさえも、敵に回してしまった。
「独裁は必要だ」と当初叫んでいたが、知事、市長が警察機構を独断に動かすことができてはじめて”独裁”は成立する。
が、日本は幸いにして自由なる民主主義国家であり、それができなかった。
だから激昂して、更に多くの人を敵に回したということ、そして順番を追わずに、長い大阪の歴史に、悪だろうとなかろうと根付いた”既得利権”を丁寧に剥がす作業を行わなかったことが、最大の敗因だ。
最大の生活保護受給者数。
不法入国者の存在。
年金を減らされることを恐れた高齢者。
一方的に行われた公務員給与と議員数の低減。
敵が多くなると、逆にお金を出してくる有象無象が味方に見える…それが特定アジアからのものだとしたら、所詮それまでの男だということだ。
テレビでの自らの見せ方を熟知したポピュリストは、法律の専門家かもしれないが、法律では動かせない存在があることを思い知るべきだった。