神話無き国だからこそ
- 2012.04.30 Monday
- 21:15
JUGEMテーマ:学問・学校
「今月の『ナショナルジオグラフィック』、南北戦争のことが載っているよー」
と師匠よりお電話をいただく。
歯周病治療のために、吉祥寺ヨドバシカメラで、電動歯ブラシを買おうか悩んでた最中だったが、何も買わずに近くの本屋まで直行し購入。
新生銀行の中にあるスタバでコーヒーを飲みつつ読んでみる。
非常にわかりやすい北バージニア軍の足跡、戦場でスケッチをする従軍画家の活躍など、メインストリームの歴史ではない、ちょっと横を流れている史実が掲載され、非常に面白いと感じ、なおかつアメリカ合衆国における悲劇を想起し、複雑な気分になったのが、一番注目したのが、南北戦争時代と同じ木製カメラと湿板で、全米各地で行われる南北戦争リエナクメントを撮影する写真家、リチャード・バーンズの記事である。
湿板写真は白黒で、端がぼやけて写り、古めかしい描画を見せる。
バーンズ氏は、リエナクメントにおいてこれを駆使して撮影するが、演じる人たちの直ぐ背後に、フォードの大型自家用車やら、簡易トイレが並べられて写っている点に、特徴がある。
「画面から現代の文明の利器を排除せず、むしろ意図的に入れこんで」おり、「バーンズが『時の重なり』と呼ぶ独特の効果が生まれる」(P47)。
再現されたゲティスバーグの砲撃戦の前方に、リエナクメントにおいて解説用のスピーカーがあり、南軍の英雄、マホーン将軍夫妻の恰好をしている参加者の真後ろにRV車が停まり、ブルランの戦いの再現準備をしてる参加者の後ろには、移動式トイレが並べられている。
「過去と現在がぶつかっている」という効果とのことだが、我輩からすると、そこにあるのは、神話をあえて作り、その神話を織りなした先祖と、今の我々アメリカ人とがつながっていることを、たとえそれが幻想であっても、確認するための写真であると思えて仕方がない。
建国されて200年以上だが、国として、国民としての神話がないというのが、アメリカの悲劇だと、我輩は常々考えている。
この本を持ち出すまでもなく、神話を持つ国民と国家は、その神話を持つことで、一定の規律と模範が根差していることを意味している。
確かに、アメリカには「神話」が存在する。
しかし、「神話」とするには、その現実性を検証するのに十分な証拠がありすぎて、幻想を通しての規律模範と化するには、あまりにも輪郭がくっきりと浮かんでいる。
小学校の頃、ピルグリムファーザーズ達が迫害から逃れ、新天地アメリカに入植し、「メイフラワー憲章」を制定…世界における最初の民主国家が生まれたと教わった。またインディアンたちと友好関係を結び、感謝祭を催した「神話」を叩き込まれた。
…ホームシックになり、入植者の殆どが英国に帰国したし、公職につかない限り、どの宗教を信じても問題なかったことを知ったのは、大学に入ってからだった。またインディアンに対する友好関係は、殆ど構築されなかったとも。
独立記念日の一か月前から延々と、アメリカ独立戦争や建国の父たちの話を、先生からこれでもかこれでもかと教わった。自由を奪われたから、英国に抵抗したとも教わった。
…ただの経済戦争でしかなかったことを知ったのも、大学に入ってからだった。
奴隷制度をなくし、万人が平等であるべき国家をめざし、南北戦争が起こったというのも、何ともまあ、虚飾に塗れたものであるか。
これもただの経済戦争、そして背後には、アメリカを分裂させることを目論んだ英国の姿がチラチラ見えてくる。奴隷解放は、後付の大義でしかなく、北軍の将軍は数多くの奴隷を持っていた。一方、南軍の将軍、とりわけリー将軍は、自らの奴隷を解放してた。こうなると、大義って、なんだろう。むしろ、南軍の行った独立(南部連盟)は、合衆国憲法に従ったものであるから、法的に考えると、軍を差し向けたリンカーン大統領に非がある。…リンカーンって、イリノイ州の弁護士だったよな?
神話なき国だからこそ、国民意識をまとめるために、神話を作ることは、悪いことではない。
ただ、勝利しか存在しない神話は、国家として崩壊の一要素になる。
南北戦争自身が、アメリカにおいて、「負の神話」であることに、意義があるし、超大国としての条件を満たしている。
Both read the same Bible, and pray to the same God; and each invokes his aid against the other.
我々合衆国も南部も、同じ聖書を読み、同じ神に祈り、敵に立ち向かう助けを求めている。
(リンカーン大統領 第2期就任演説より)
「戦争」とあるが、「内戦」でしかない。
「内戦」には勝利者が存在しない。
あるのは自国の破壊だけ。
だから逆に、バーンズ氏の写真に、価値がある。
「過去と現在がぶつかっている」ということは、つまり「過去から現在に向けて、負の神話を常に問い続けている」ということを意味する。
アメリカにある「神話」は、未だに現実そのものであるのだ。
だから常に、国家を一つに保つこと、国民として一つにUNITEし続けなければならないことを、訴えているのだ。
神話無き国だからこそ、リアリズム溢れる神話が根付いてるのだ。
だから今でも唯一の超大国であるし、あり続ける。
そして、これ以上ない残酷な国であることも意味している。
その国に恐怖しつつも、我輩は誰よりも深く愛している。
「今月の『ナショナルジオグラフィック』、南北戦争のことが載っているよー」
と師匠よりお電話をいただく。
歯周病治療のために、吉祥寺ヨドバシカメラで、電動歯ブラシを買おうか悩んでた最中だったが、何も買わずに近くの本屋まで直行し購入。
新生銀行の中にあるスタバでコーヒーを飲みつつ読んでみる。
非常にわかりやすい北バージニア軍の足跡、戦場でスケッチをする従軍画家の活躍など、メインストリームの歴史ではない、ちょっと横を流れている史実が掲載され、非常に面白いと感じ、なおかつアメリカ合衆国における悲劇を想起し、複雑な気分になったのが、一番注目したのが、南北戦争時代と同じ木製カメラと湿板で、全米各地で行われる南北戦争リエナクメントを撮影する写真家、リチャード・バーンズの記事である。
湿板写真は白黒で、端がぼやけて写り、古めかしい描画を見せる。
バーンズ氏は、リエナクメントにおいてこれを駆使して撮影するが、演じる人たちの直ぐ背後に、フォードの大型自家用車やら、簡易トイレが並べられて写っている点に、特徴がある。
「画面から現代の文明の利器を排除せず、むしろ意図的に入れこんで」おり、「バーンズが『時の重なり』と呼ぶ独特の効果が生まれる」(P47)。
再現されたゲティスバーグの砲撃戦の前方に、リエナクメントにおいて解説用のスピーカーがあり、南軍の英雄、マホーン将軍夫妻の恰好をしている参加者の真後ろにRV車が停まり、ブルランの戦いの再現準備をしてる参加者の後ろには、移動式トイレが並べられている。
「過去と現在がぶつかっている」という効果とのことだが、我輩からすると、そこにあるのは、神話をあえて作り、その神話を織りなした先祖と、今の我々アメリカ人とがつながっていることを、たとえそれが幻想であっても、確認するための写真であると思えて仕方がない。
建国されて200年以上だが、国として、国民としての神話がないというのが、アメリカの悲劇だと、我輩は常々考えている。
この本を持ち出すまでもなく、神話を持つ国民と国家は、その神話を持つことで、一定の規律と模範が根差していることを意味している。
確かに、アメリカには「神話」が存在する。
しかし、「神話」とするには、その現実性を検証するのに十分な証拠がありすぎて、幻想を通しての規律模範と化するには、あまりにも輪郭がくっきりと浮かんでいる。
小学校の頃、ピルグリムファーザーズ達が迫害から逃れ、新天地アメリカに入植し、「メイフラワー憲章」を制定…世界における最初の民主国家が生まれたと教わった。またインディアンたちと友好関係を結び、感謝祭を催した「神話」を叩き込まれた。
…ホームシックになり、入植者の殆どが英国に帰国したし、公職につかない限り、どの宗教を信じても問題なかったことを知ったのは、大学に入ってからだった。またインディアンに対する友好関係は、殆ど構築されなかったとも。
独立記念日の一か月前から延々と、アメリカ独立戦争や建国の父たちの話を、先生からこれでもかこれでもかと教わった。自由を奪われたから、英国に抵抗したとも教わった。
…ただの経済戦争でしかなかったことを知ったのも、大学に入ってからだった。
奴隷制度をなくし、万人が平等であるべき国家をめざし、南北戦争が起こったというのも、何ともまあ、虚飾に塗れたものであるか。
これもただの経済戦争、そして背後には、アメリカを分裂させることを目論んだ英国の姿がチラチラ見えてくる。奴隷解放は、後付の大義でしかなく、北軍の将軍は数多くの奴隷を持っていた。一方、南軍の将軍、とりわけリー将軍は、自らの奴隷を解放してた。こうなると、大義って、なんだろう。むしろ、南軍の行った独立(南部連盟)は、合衆国憲法に従ったものであるから、法的に考えると、軍を差し向けたリンカーン大統領に非がある。…リンカーンって、イリノイ州の弁護士だったよな?
神話なき国だからこそ、国民意識をまとめるために、神話を作ることは、悪いことではない。
ただ、勝利しか存在しない神話は、国家として崩壊の一要素になる。
南北戦争自身が、アメリカにおいて、「負の神話」であることに、意義があるし、超大国としての条件を満たしている。
Both read the same Bible, and pray to the same God; and each invokes his aid against the other.
我々合衆国も南部も、同じ聖書を読み、同じ神に祈り、敵に立ち向かう助けを求めている。
(リンカーン大統領 第2期就任演説より)
「戦争」とあるが、「内戦」でしかない。
「内戦」には勝利者が存在しない。
あるのは自国の破壊だけ。
だから逆に、バーンズ氏の写真に、価値がある。
「過去と現在がぶつかっている」ということは、つまり「過去から現在に向けて、負の神話を常に問い続けている」ということを意味する。
アメリカにある「神話」は、未だに現実そのものであるのだ。
だから常に、国家を一つに保つこと、国民として一つにUNITEし続けなければならないことを、訴えているのだ。
神話無き国だからこそ、リアリズム溢れる神話が根付いてるのだ。
だから今でも唯一の超大国であるし、あり続ける。
そして、これ以上ない残酷な国であることも意味している。
その国に恐怖しつつも、我輩は誰よりも深く愛している。